十月 無花果

グランエックス12ヶ月
中川たまさん

旬を心待ちにする果物のひとつが無花果。
秋風に乗って現れて、冬の足音とともに消えてしまう。
無花果は、秋そのもののようなフルーツです。
ジャムにしたり、コンポートにしたり、
少しでも長く楽しめるくふうを、惜しみなく。

秋、青果店の店先にぽってりとした姿の無花果が並ぶと、
決まって思い出すことがあります。

小学生の頃、近所にあった立派な無花果の木。
赤紫に熟れたその実を食べたい一心で木に登り、
心ゆくまでいくつもほおばりました。

でもそのあと、だんだん体がかゆくなってきて、
気づけば全身にぽつぽつと発疹が。灰汁の強い無花果は
体質によってはかゆみを伴うらしく、それ以降は口にすることが減っていきました。

保存するならコンポート液に漬けたまま冷蔵庫へ。コンポート液はソースやドレッシングにも活用。

大人になって、久しぶりに口にした無花果は
子どもの頃の記憶よりずっと上品で、
とろりとした甘さの中にあるほのかな酸味、
ぷちぷちとした独特の食感の虜になって、
秋を心待ちにするようになったのでした。

もうひとつ、大人になって知った無花果の魅力は、色。
黄色から赤紫へと続くグラデーションは、
そのままキッチンに置いても絵になりますし、
コンポートにすれば、澄んだルビー色の煮汁が美しい。

味と食感、そして色。
無花果の魅力をどんなお料理にして味わおうか。
そうあれこれ考えるのは、とても楽しいひとときです。

短い旬を長く楽しむために。

じつは無花果の収穫時期は年に2回あって、6〜7月頃に収穫したものは夏果(かか)、8〜10月頃に収穫したものは秋果(しゅうか)と呼ばれるそうです。

一般的には秋果のほうがおいしいと言われていて、青果店でよく目にするのもその頃です。

毎年、無花果が並ぶのを心待ちにしているせいか、見つけるとここぞとばかりに買い込んでしまうのですが、こと無花果に関しては足が早く、ぼやぼやしているとすぐに熟れすぎてしまいます。

へたが緑色のものはまだ未熟。濃い赤紫色になったら食べごろです。

うちでは熟れ頃のものは生で食べ、残りはコンポートに。煮てしまえば10日間は保存できるので、冷やしてそのまま食べたり、アイスと一緒に食べたりと、家族の楽しみ方はそれぞれ。秋のデザートの定番です。

コンポートにすると、ねっとりとした食感が艶かしく、まさに「大人の果実」といった雰囲気。子どもが寝静まったあと、白ワインと一緒にいただくのも、秋の夜の密かな楽しみなのです。

いちじくのコンポート。ねっとりした果肉の中に、ぷちぷちとした種の食感がおもしろい。

無花果のビネガーコンポートはこんなふうに。

[材料]

(作りやすい分量)
無花果
4〜6個(300g〜450g)
白ワイン
1と1/2カップ(300mL)
1と1/2カップ(300mL)
白ワインビネガー
80mL
砂糖
80g
蜂蜜
20g

[作り方]

  1. 無花果は傷つけないように優しく丁寧に洗い、水気を拭く。
  2. 全ての材料を鍋に入れ、キッチンペーパーで落し蓋のように覆って弱めの中火にかける。沸騰したら火を弱め、約15分煮る。
  3. そのまま冷まし、あら熱がとれたら保存容器に入れ冷蔵庫で保存する。液につかっている状態で1週間〜10日保存可能。

最後の一滴まで愛おしい、
ルビー色のコンポート液。

おいしいコンポートを作るコツは、皮ごと鍋に入れて、いじらず、ごく静かに優しく煮ること。

無花果のぽってりとした愛らしい形を残せますし、皮の赤紫色が煮汁に移って、なんとも美しい、澄んだルビー色のコンポート液ができます。

お砂糖をたっぷり入れて、甘いコンポート液にするのもいいですが、我が家ではワインビネガーを入れて酸味を加えます。

煮汁に浸らない部分までしっかり火が通るよう、キッチンペーパーで落としぶたをして静かに煮ます。

コンポートにかければ無花果の甘さが引き立ちますし、お肉のグリルのソースやドレッシングなど、いろいろなお料理に使うこともできます。

お気に入りは、紅茶に少しだけ加える、ロシアンティーのような飲み方。無花果の甘みがほのかに香って、華やかな風味になります。ルビー色の紅茶は優雅で、おもてなしにもおすすめです。

紅茶にジャムを加えるロシアンティーを真似て、コンポート液をひとさじ。

料理:中川たま 撮影:野川かさね 文:小林百合子

<プロフィール>

中川たま

中川たま
(なかがわたま)

料理家。神奈川県・逗子で夫と高校生の娘と暮らす。自然食品店勤務後、ケータリングユニット「にぎにぎ」を経て独立。伝統を受け継ぎながら今の暮らしに寄り添い、季節のエッセンスを加えた手仕事の提案を行う。最新刊は2018年2月刊行の『季節の果実をめぐる114の愛で方、食べ方』(日本文化社)。ほか著書多数。

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