あの人に聞きました
ウー・ウェンさん
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食べることで、わたしたちが得られるものはなんでしょう。
「おいしい!」という感動や驚き、そして家族の団らん。
そしていちばん大切なことは、「健康」です。
たのしく、おいしく食べることで、体を健やかに保つ。
「食」のきほんとなるお話を、
料理研究家ウー・ウェンさんに伺います。
料理研究家ウー・ウェンさんに聞く「むつかしくない家庭の医食同源」。なかでも大切なことは、「自分の体の声に耳を傾けること」だとおっしゃいます。2回目は、体調に合わせた食べ物の選び方と、食べ方について教えていただきます。
「食べるべきものは、自分の体に聞きなさい」
前回、「医食同源」のきほんは、「家族ひとりひとりの体調をしっかりと見極めること」とお話ししましたが、それは自分の体でも同じことです。自分の体のことを理解できなくては、何を食べていいかわかりませんよね。だからそれが生きて行くうえで一番大切なこと、生きる力なんです。
日本の方はよく、「疲れているから、焼肉を食べよう!」「ニンニクを食べてスタミナをつけよう」と言いますね。でもよく考えてみてください。体が疲れているということは、胃腸も弱っているということです。そんなときに消化にものすごいパワーを必要とするものを食べたら、どうなってしまうでしょう。余計に体への負担がかかりますよね。

誤解しないでいただきたいのは、「焼肉が体に悪い」というわけでは決してないということ。体調がよくて、しっかり消化できるときに食べればエネルギーになって、体を元気にしてくれます。要するに、食べるタイミングが悪いのです。自分の体調や体のしくみを知らないと、こういうことが起こってしまうわけです。
「じゃあ、疲れているときには何を食べればいいですか?」とよく聞かれます。そんなときは、少し極端な言いかたですが「何も食べずに、寝ていなさい」と答えます。
「元気」と「病気」という漢字を思い浮かべてみてください。どちらも「気」という文字がついています。「元気」というのは、病を患った状態から「元に戻す」という意味。病と闘ってパワーアップするのではなく、弱った体を休めて元の状態にするということですから、胃腸も同じく、休ませる時間が必要なのです。

「健やかとは、 体をあるべき状態に戻すこと」
たとえば「食欲の秋」という言葉がありますが、秋の初めはまだ夏の疲れが残っていて、体は弱った状態です。そんな時期は食欲よりもまず休息。お肉やお魚をもりもり食べるのではなく、胃腸にやさしいお芋やきのこを使った料理がいい。それで体が元に戻ったら、存分に秋の味覚を楽しめばいいんです。

これはどんな季節も同じで、例えば春には冬の間に低下した代謝をスムーズにする山菜、秋には夏の暑さで弱った消化器の働きをよくするきのこや体を温めてくれる根菜があります。季節の変わり目には、こういった食材を食べて前の季節で弱った体を元に戻すことが肝心。体をあるべき状態に戻し、新しい季節を健やかに過ごすための準備をするのです。
その点、食べ物というのは本当によくできていて、季節の変わり目などで体が弱る時期には、それを助けてくれる食材が旬を迎えるようになっています。旬の食材を日々楽しんでいる方も多いと思いますが、それに加えて、食材の特徴や、季節ごとの体調の変化について少し思いをめぐらせると、食べ物と健康とのつながりがよりくっきりと見えてきます。
「こんなとき、何を食べればいいのだろう?」。その答えを自分で導きだせるようになれば、家庭の医食同源はもっと身近に、簡単なものになりますよ。
ふだん何気なく食べている旬の食材ですが、季節にあわせて体を整えてくれる頼れる存在でした。自分や家族の体の声に耳を傾け、季節ごとの食べ物の力を借りて健康を保つ。薬や病院に頼らず健やかに過ごすために、日々実践したいことです。

ウー・ウェンさんの体を調える料理②
きのこのスープ
栄養たっぷりで、しかも低カロリー。夏の間溜め込んだ老廃物をデトックスしてくれるきのこをたっぷり使ったやさしいスープです。

[材料]
- (作りやすい分量)
- しめじ
- 1パック(100g)
- えのき
- 1パック(100g)
- まいたけ
- 1パック(100g)
- 油揚げ
- 1枚(30g)
- 水
- 4カップ(800mL)
- 黒酢
- 大さじ2(30g)
- しょうゆ
- 大さじ1(18g)
- こしょう
- 小さじ1/3(1g弱)
- ごま油
- 小さじ1(4g)
[作り方]
- しめじ、えのきは石づきを取り、まいたけはひと口大にさく。油揚げは千切りにする。
- 油揚げを鍋に入れ、分量の水を入れて火にかける。煮たったら弱火にしてふたをし、5分煮る。
- 2に1を入れて5分ほど煮て、仕上げに黒酢、しょうゆ、こしょう、ごま油で味を調える。
料理:ウー・ウェン スタイリング:竹内万貴 撮影:平野太呂 文:小林百合子
<プロフィール>

ウー・ウェン
料理研究家。中国・北京出身。1990年来日。母から受け継いだ家庭料理が評判となり料理研究家の道へ。「料理を通じて日本と中国との架け橋になりたい」という思いから東京と北京でクッキングサロンを主宰する。