あのひとがうんという
ホルトハウス房子さん

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本当においしいものを食べたとき。
好みの上質なものを見つけたとき。
人は、声にならないうなずきをするものです。
「うん」と。
あの人が「うん」と言うものは、
どんなものやどんな味なのでしょう?
真のおいしさや上質さを知る人々にお話を聞く連載です。

前回に続き、料理家のホルトハウス房子先生のお話です。
「もうね、病気なんですよ。
素敵だと思ったら、つい、買ってしまうの」
と笑いながら話す器について。
先生は、どんな器を選び、
どう使われているのでしょうか?

台所から見える奥の壁は、一面に食器棚があります。

先生のお宅では、台所の奥に大きな食器棚があります。
並んでいるのは白くて華奢な洋食器から、骨董のような和食器までたくさん。先生はいつもこの棚から好きな器を選んで盛り付け食卓へと運んでいます。

私は使うものしか買わないんです。飾るのは好きじゃなくてね。
これに何を盛り付けようかって考えるのが楽しいんです。選ぶときは、好きか嫌いかで判断するだけ。
値打ちがあるとかないとかは興味ないんです。好きだなと思うとすぐ買ってしまってね、ダメね。
でも、使っていると割れてしまったりもするから、食器棚から溢れて困るということはないわね。もちろん、直せるものは金継ぎしてもらって使っていますけれど。

そして、そんなホルト先生の愛用の器をみせていただきました。

器はどれも愛着があるんですよ、どういうものがいいかしら…。あ、これきれいでしょう?鎌倉に来た時に買ったので、50年くらい使っているものです。朱色の感じがすごくいいわよね。5枚揃いで買って、これはちゃんと割れずに5枚あるわ。左の淡い色の器は、横浜の元町で買ったんだったかしら。1枚ちょっと欠けてるの。直そうと思っているんですけれどね。これは日本の昔のもので、思い切って買ったという記憶があります。

右が50年以上使い続けている皿。左は日本の骨董。
アメリカで購入した器。いいと思ったものは作家や国を問わず取り入れています。

海外で器を購入されることもありますか?

ありますよ。この黒みがかった色の器は、アメリカで買ったと思うんですけれど。ろくろで作っているのかしら?ヒダを入れているような形がすごくおもしろいわよね。
陶芸というよりも現代アートっぽい感じでいいなと思って買ったんです。有名な作家のものとかじゃないんですよ。
なんてことない器ですけれど、いいなと思って。
これは2つ買って、1つは友達へお土産としてあげちゃったわ。

金継ぎをされた器も見せていただけますか?

わかりやすいのはこの器かしら。
どうしてこんなに割れちゃったのか、きっと落としたんでしょうね。いつ買ったのかも覚えてないくらい長く使っている器です。
私は酉年生まれなので鳥の柄のものよく買うんです。
この金継ぎは本当に上手にできているでしょう?
私はいつも道具屋さんに渡しているんですけれど、器に合う塗り師さんに頼んでくれているみたいで、よくぞ直してくださったと思っています。
ただ、時間はかかりますよ。いつも忘れた頃に直ってくるんですけれど、それもまた楽しいわね。
この直した跡も景色になるというのがいいんです。

金継ぎをした部分も、器の「景色」として美しく見えます。

器を選ぶときにお値段は気になりますか?

器も家具も、高すぎるものは買いません。そもそも買えませんからね。散々悩んで買うものもあります。それこそ清水の舞台から飛び降りるって感じで買ったものもありますし、ガラクタみたいなものも欲しくて買ったりもしますね。
後になって、どうしてそんなに悩んで騒いだのかしら、なんて思うこともありますよ。市場価値というのはないんでしょうけれど、好きだ好きだって騒いじゃって。

でも、楽しいんです。器は毎日のように使うからどうしても欠けたり割れたりしてしまうんですけれど。それでも直って戻ってくると嬉しいし、さらに楽しくなるものですよ。

割れてもなお、金継ぎして使っている器を
先生はとても愛おしそうに見ていました。
どんな器も、使ってこその楽しさがある。
好きな器を見つけた時はもちろん、
料理を盛り付けて使っている時にこそ、
先生は「うん」とうなずいているのかもしれません。

写真:広瀬貴子 文:晴山香織

<プロフィール>

ホルトハウス房子
(ほるとはうすふさこ)

料理研究家。1933年、東京都生まれ。アメリカ人の夫とともに、海外で生活するなかで世界中のさまざまな味に親しむ。旬の素材を使った西洋料理、洋菓子を教える料理教室を主宰。自宅の一角で洋菓子店「ハウス オブ フレーバーズ」も営む。著書多数。

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