あの人が「うん」という
ホルトハウス房子さん

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本当においしいものを食べたとき。
好みの上質なものを見つけたとき。
人は、声にならないうなずきをするものです。
「うん」と。

あの人が「うん」と言うものは、
どんなものやどんな味なのでしょう?
真のおいしさや上質さを知る人々にお話を聞く連載です。

料理家のホルトハウス房子先生のお話の3回目は、普段、お料理をするうえで大切にされていることについて伺いました。
ベテランの先生でも、失敗しないか不安になること、おいしいものを食べる手間や時間は惜しまないことなど、興味深いお話です。
さまざまな種類の木が生い茂る、気持ちのいい庭をゆっくり歩きながら、お聞きしました。

先生が毎日立つ台所。リビングだけでなく、窓の外にも緑が広がります。

「先生がお料理をするときに心がけていることはなんですか?」

そうね、料理は今でも上手くできるか、心配しながら作ります。失敗することもあるんですよ。ああいけない、ぐずぐずしてたからちょっと焼きすぎてしまったわってことは年中あります。だからこそ、上手くできたときは、いちいち感動しています。あと、一番嬉しいのはそれを食べている時ですね。

庭の上には東屋があり、ここでお茶を飲むこともあるそう。

先生でも失敗されたり不安になることがあるとは驚きました。そんなお話を伺えると、ちょっと安心します。

それはありますよ。特に健康状態が良くないときとかは上手くできないんじゃないかしら?みなさんそうじゃないですか?
よく食べに行くお店が何軒かあるんですけれど、もう40年以上のおつきあいの料理人の方ばかりで、みなさんずっとお元気ですね。だからおいしいものを作れるんだと思いますよ。

元気でいる秘訣はなんでしょうか?

私は、おいしいものがあれば、何も怖くなくなっちゃうわね。
お料理するときも、外食の時も、食べたいものを食べています。おいしいものを食べたいから、作ったり、食べに行ったりしているんです。
例えば、このパンおいしそうだなと思っても、朝焼くときになって、うまく焼けるか心配になります。でも、おいしそうだからどうにかうまく焼いて、おいしく食べるぞ、と思っているんです。食べるときは冷たいバターをのせるのが好きね。その辺に出しておけば、柔らかくなるのはわかっているんですけれど、
おいしい冷たいバターをチョンチョンチョンってのせて食べるとおいしいじゃないですか。冷たい塊をパンに押し付けると凹んでしまうから注意してのせるんですけど。小さなお塩の塊が入っているバターとか、無塩バターのこともありますし、ジャムと合わせることもありますね。
そう考えると、食べるまでの工程を楽しんでいるのかもしれません。こうなったら絶対おいしくなるだろうって、考えているのが楽しいのね。

奥に見えるテーブルが、ご主人と一緒に朝ご飯を食べる場所。

工程を楽しむ、というのはケーキを切るのも楽しんでほしいという1回目のお話にも通じるものがあります。他に、大切にしていることはありますか?

朝ごはんは、お天気が良ければ、いつも外で食べています。庭を見ながら過ごすのは、とても気持ちがいいですよ。最初、ここに家を建てるときは、斜面で大丈夫かしら?って不安に思ったけれど、今となってはよかったわね。毎朝、庭の中を登ったり降りたりしているのが、いい運動になっていますよ。運動することも大切だと思います。動けばまたお腹が減って、ご飯がおいしく食べられますからね。

最後まで、食いしん坊の顔を見せてくれた先生。おいしいものを食べたいという気持ちにまっすぐに料理をし、器を選び、運動をする先生は、本当にはつらつとしています。
手間も時間も惜しまずに「うん」とうなずけるものを増やしていくことが、毎日を心地よく過ごす秘訣なのかもしれません。

写真:広瀬貴子 文:晴山香織

<プロフィール>

ホルトハウス房子
(ほるとはうすふさこ)

料理研究家。1933年、東京都生まれ。アメリカ人の夫とともに、海外で生活するなかで世界中のさまざまな味に親しむ。旬の素材を使った西洋料理、洋菓子を教える料理教室を主宰。自宅の一角で洋菓子店「ハウス オブ フレーバーズ」も営む。著書多数。

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