わたしの台所
小堀紀代美さん

第1話
じっくり、こつこつ、今日も研究中

台所をのぞけば、その人の暮らしが見えてきます。
日々の料理、好きな道具、小さな発見や工夫。
料理好きなあの人の、ふだんの台所を見せていただく連載。
今回は、料理家・小堀紀代美さんの台所です。

陽光が差し、古き良きデザインが美しい小堀さんのキッチン

家の中で一番好きな場所

住まいは、築40年を越えるヴィンテージマンション。
木の扉を開くとあらわれる、陽光差す台所は、外国の香りが漂う空間。レトロなタイル、マスタード色のシンク、アメリカのガスオーブン。古き良きデザインが、おおらかで温かみのある雰囲気を醸し出しています。

「築40年ならではの雰囲気が残っていて、家の中でもキッチンが一番好きです。ここは仕事場でもあるし、生活の場でもあるし、癒される場でもある。一番落ち着く、安心できる場所です」

窓は南西向きで一日中明るい。ここで洗い物をするのが小堀紀代美さんの好きな時間
窓は南西向きで一日中明るい。ここで洗い物をするのが好きな時間

朝の台所は、夫婦の食事を作る場。忙しくても朝昼兼用の一回の食事は、なるべく一緒に食べるようにしています。

「家での食事は、野菜や豆腐、果物など、体が喜ぶものをとるようにしています。洋食のイメージがあるとよく言われるんですが、ふだんは普通のごはん。だしや滋味深い和食も大好きです」

その後は、レシピの試作や撮影、料理教室の準備など、台所は“ラボ”状態に。スムーズに作業ができるようにと、一部をリフォームしました。コンロの対面部にあった作りつけ収納は取り払い、作業台とその上にオープン棚を設置。

「料理中に切った野菜や調味料を入れたボウルを、ちょっと置けるスペースがあるだけで、使い勝手が全然違います」

小堀紀代美さんの機能的なキッチン。グレーのタイルを貼り、棚をDIYで取り付け。包丁はマグネットバーに
グレーのタイルを貼り、棚をDIYで取り付け。包丁はマグネットバーに

機能的なだけでなく、楽しいムードが漂っているのが、小堀さんの台所。

「オープン棚はディスプレイを楽しむ場になってきてますね…」と笑って見つめる先には、世界各国で見つけてきたかわいい缶や箱が、道具とともに並び、いろどりを添えています。

これまで訪れた国は、30数カ国、70都市以上。
旅先では、その土地の料理を食べ歩くのが大きな楽しみ。

「そういえば、家族旅行もやっぱり食べ歩きでした。実家は洋菓子店なので、旅行といえばケーキ屋さんめぐりでしたね」

各国の料理本も大好きで、ダイニングルームの本棚には、食にまつわる色とりどりの本が100冊以上収められています。
旅をしたり、本を読んでは好奇心のつばさを広げ、台所でその味を自分流に再現してみる。そんな日々が、作り上げる料理の基盤になっています。

小堀紀代美さんが海外の旅先で買い求めた洋書が本棚にびっしりと
デザインを眺めるだけでも楽しい洋書たち。旅先ですてきな本を見るとつい買ってしまう

楽しく、一途に、おいしさを追求

訪れた日の台所は、スパイスのいいにおい。
作っていたのは、その名も「謎のチキン」。
営んでいたカフェでも大人気だった、小堀さんの定番料理です。

「アメリカのフードライターのアマンダ・ヘッサーが、自分の恋や、食について書いた、とても楽しいエッセイがあって。その中に出てくる料理をおいしそうだと思って作ってみたのが、このレシピが生まれたきっかけです」

小堀さんのお気に入りの一つ。アメリカのフードライターのアマンダ・ヘッサーの「恋のお料理ノート」
食の専門家ならではの視点が冴えるエッセイ。友人にあげることも多い

気になった料理は実際に作ってみて、おいしさをひたむきに探求していきます。使う肉の部位や、調味料の配合、焼き時間。スパイスは数十種類を独自にブレンド。このカレー粉は何通りも試作して、これだと思う組み合わせを作り出しました。

「作って失敗して、その繰り返し。私、料理に関してはしつこいタイプなんです(笑)。90点ではなく100点を追求していきたいし、あ〜すごくおいしい!と思えたら、次もそう作れるようにその理由を探り、また作ってみます。実家は洋菓子店で、毎日100点を作る完成度が求められる世界でした。自分がどちらかというと職人ぽいのは、親譲りなのかもしれないですね」

特製ソースをかけて焼き上げたチキンは後を引くおいしさ。マヨネーズが旨味になっているが、「何が入っているの?」と聞かれても言いづらく、友人に謎のチキンと命名された

温度や、食材を入れる順番。「どうしてこうなるんだろう?」とつねに問いかけながら、一つ一つ解き明かし、おいしさを導き出していく。
一途に探求していった料理は、また食べたい!、と思わせる深い魅力に満ちています。

「突き詰めてきたものも多いけれど、できないものとか、作ったことのないものもいっぱいあります。引き出しが少ないので料理の仕事では苦労しますが、狭く深く、人の記憶に残る料理を作っていけたら」

気持ちはいつも料理勉強家なんです、
と笑う姿はとてもチャーミング。

じっくり、こつこつ、台所での探求は続きます。

エプロンは色違いで集めているという小堀紀代美さん。
エプロンは色違いで集め、その日の気分で選ぶ。作業がより楽しくなる小さな工夫

次回は、小堀さんが愛してやまない
台所の道具やインテリアについてのお話です。

写真:西希 文:加藤奈津子

<プロフィール>

小堀紀代美

小堀紀代美(こぼりきよみ)

カフェのような食堂『LIKE LIKE KITCHEN』のオーナーシェフを経て、料理家に。同名の、料理とお菓子の教室を主宰する。著書に『フルーツのサラダ&スイーツ 』(NHK出版)、『スプーンで作るおやつ』(主婦の友社)など。

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