あの人に聞きました
山戸ユカさん

3

食べることで、わたしたちが得られるものはなんでしょう。
「おいしい!」という感動や驚き、そして家族の団らん。
そしてもうひとつ大切なことは、「健康」です。
たのしく、おいしく食べることで、体を健やかに保つ。
「食」のきほんとなるお話を、料理のプロに伺います。

自然豊かな土地に移り住み、玄米菜食料理を中心とした
身体も心も元気になれる食」を発信しています。
3回目は山戸さんが考える食と環境についてのお話です。

「美味しい食材は料理をシンプルにする」

前回、自分の暮らす土地で採れた食材を使うことで、料理がぐっと美味しくなるというお話をしました。今回はその続きなのですが、もう少し踏み込んで、健やかな食卓と食材選びについてお話したいと思います。私が東京から八ヶ岳山麓に引っ越して一番驚いたこと、それは水や食材の美味しさにありました。

お店を開くにあたって地元の農家さんを探したのですが、そのとき野菜を持ってきてくれた有機農家さんの野菜を食べて、驚きました。例えばレタスやケールなどの葉物野菜。それまで食べていたのと同じ種類とは思えないほどしっかりとした葉で、噛むのが大変なほど。味が濃くて力強くて、本来野菜が持っている苦味もきちんと感じられました。そのとき、大げさではなく「ああ、レタスってこんな味がしたんだ」と思ったんです。

自宅から見える南アルプスや八ヶ岳の山々。山のおかげで水道の水も驚くほどおいしい。

地元の有機野菜を使うようになってから、自分の料理が徐々に変わっていくのを感じました。一番は調味料で、日本酒や砂糖などは格段に使う量が減りました。食材の味がしっかりしている分、うま味を加えるための余計な調味料が必要なくなったんだと思います。あとは「せっかくの野菜の味を消したくない」という気持ちが強くなって、どんどん料理がシンプルになっていきました。

卵はというと、同じく地元農家さんが作る平飼い卵を使っています。「平飼い」というのは、鶏をケージに入れず、自由に歩き回らせて飼育する方法です。のびのびと野生に近い環境で育てられた鶏の卵はさっぱりとしていて、それでいてとても味わい深いのだと、最初食べた時は驚きました。ほかの食材と一緒に調理しても主張しすぎず、ふんわりと包み込むような優しさがあります。

産みたての平飼い卵
産みたての平飼い卵はさっぱり、軽やかな味わいです。

「健やかな食は“美味しい”を知ることから」

農薬や化学肥料を使わずに育てられる野菜は、自力で寒さや病気に打ち勝とうと、ありったけの生命力を振り絞って大きくなります。だからこそ力強く、濃い味がします。自由な環境で育った鶏は、余分なものを含まないピュアな味の卵を産んでくれます。自然の摂理に逆らわずに作られた食物というのは、健やかで混じりっ気のない味がする。それは私がこの土地で料理をすることを通して、日々実感していることです。

そしてもうひとつ気づいた大切なことあります。それは、そうした食物を作るためには、とてつもない時間と労力がかかるということ。有機野菜も平飼い卵も一度にたくさんは作れませんから、値段が高くなりがちです。でも農家さんの苦労を垣間見て、その味を知ったら、値段にも納得して日々の食材を選べるようになりました。そこには健やかな食物を作ろうと努力する農家さんを応援したいという気持ちもあります。

十分に熱したしたフライパンに一気に卵液を流し込む
十分に熱したフライパンに一気に卵液を流し込むのが綺麗な卵焼きを作るコツ。

最近は東京でも有機食材を手に入れやすくなりました。少し値は張りますが、ぜひ一度買って、素材を活かした料理を作ってみてください。今回は卵サンドをご紹介しましたが、味付けは塩・こしょうにカレー粉を少し加えただけのシンプルなもの。でも卵が変わるだけで大違い。「卵ってこんな味がしたんだ!」と驚くと思います。もちろん有機や平飼いであっても、口に合わないものもあるでしょう。そんなときはいろいろ試して、本当にいいと思えたものだけを使えばいいんです。


重要なのは「有機」というラベルではなくて、何より「美味しい」ということ。それを知るには、同じ野菜でも何が違うのか、どう美味しいのかを見極める舌が欠かせません。すぐには難しいかもしれませんが、いろいろな産地や農家の食材を食べてみて、自分なりの「美味しい」を見つけてください。それは日々の料理を豊かにするだけでなく、自分が選んだ食材がどこでどう作られているのかを知ることにも繋がります。健やかな食卓は、そういうところから始まるんじゃないかなと思うんです。

パンに卵焼き、ルッコラを重ねて
食パンの大きさに合わせて卵焼きを作ると、端までぎっしりのサンドイッチに。

山戸ユカさんのおいしくて健やかな料理③

スパイス卵サンド

ふわふわの卵焼きが主役のサンドイッチ。
ほんのりカレー風味で、いくらでも食べられる美味しさです。

スパイス卵サンド

[材料]

(1人前)
食パン(6枚切り)
2枚
マヨネーズ
大さじ1(12g)
カレー粉
少々
ルッコラなどのお好みのハーブ
適量
サラダ油
小さじ1(4g)
(A)
3個
ひとつまみ
ブラックペッパー
少々
無調整豆乳(または牛乳)
小さじ1(5mL)

[作り方]

  1. マヨネーズにカレー粉を加えてよく混ぜ、食パンの内側にぬる。
  2. ボウルにAの材料を入れ、箸で切るように混ぜる。
  3. 小さめのフライパンに油を熱し、2の卵液を一気に流し込む。
  4. スプーンで端からめくるようにしてかき混ぜ、大体パンと同じ大きさの卵焼きを作る。
  5. 1のパンの上に卵焼きを乗せ、ルッコラも乗せてもう一枚のパンでサンドする。
  6. パンの耳を切り落とし、4等分に切る。

料理:山戸ユカ 撮影:平野太呂 文:小林百合子

<プロフィール>

山戸ユカ

山戸ユカ(やまとゆか)

料理研究家。東京都出身。2013年に山梨県北杜市に夫ともに移住。レストランDILL eat,lifeを営む。地元産の有機野菜を使い、玄米菜食を中心とした料理を提供する。近著に『DILL EAT,LIFE. COOKING CLASS』(グラフィック社)。

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