わたしの台所
パン・ウェイさん

第2話
台所から元気が生まれる

料理好きなあの人の、ふだんの台所を見せていただく連載。
料理家、パン・ウェイさんのアトリエを訪ねて、台所と日々の暮らしについて伺っています。
よく食べ、よく働き、よく話し、よく笑う。
太陽のように明るいパンさんの、元気の源が“食”。
台所で毎日どんなものを作り、食事を楽しんでいるのか教えていただきました。

パン・ウェイさん_台所から元気が生まれる

朝ごはんは一番しっかり食べる

「朝食は、質のいい食べ物をたくさん食べます。昼食は、自分が好きなものをお腹いっぱい。そして夕食は、少なく抑えます。食べたら寝るだけですから、なるべく胃腸を休ませられるものを。これが中国では古くから言われている養生の方法なのです」

朝によく食べるのが、北京では定番の雑穀のおかゆ。「毎日台所で立ち仕事する分、むくみを取らないと」と、必ず入れるのが、あずきやはと麦。冷凍庫には炊いた雑穀をいつでもストックしています。そして、パンかおまんじゅうに黒ごまペーストをのせたもの。これを温かい豆乳と食べるのが、北京の子どもの典型的な朝ごはんなのだそう。さらに卵と果物は必ず、チーズも時々。

夕食を軽く抑えるため、毎朝お腹がすいて目覚めるというパンさん。「朝、食欲があれば、午前中から元気に動けます。人生は限りあるもの、朝からだるいともったいないでしょ」と笑います。

パン・ウェイさん_雑穀のおかゆ
玄米、もち米、はと麦、あずき、あわ、長芋を入れた雑穀のおかゆ。雑穀はそれぞれ炊飯器で炊いて小分けにして冷凍しておけば、朝は水と一緒に煮るだけ。梅干しやはちみつを入れて食べる。

野菜はとにかくたっぷり!

毎日野菜をお皿いっぱいに食べるというパンさんは、「野菜は体の解毒剤のようなもの。体の中をきれいに調えてくれます」と話します。暑い時期は、熱を排出する作用があるトマトやにがうりなどの夏野菜を。日差しを浴びた後は、キュウリをたくさん食べて水分とミネラルを補給。湿度が高くてだるさを感じる時は、キウイや梅などクエン酸をとって、血の巡りをよくしたり。

「旬の野菜や果物をとることは、未病の予防になります。今の季節と次の季節を元気にすごすための準備になるんです」

同時に薬膳の基本である、“五味”(白、黒、赤、黄、緑。五つの色を食べればバランスよく栄養素がとれ、自然と元気になれるというもの)も大事に。パンさんの夕食の定番は、冷蔵庫にある野菜で作る具沢山のスープ。「何色の食材が足りないのか、朝食と昼食から考えて、全部スープの中に入れてしまいます。体を冷やさず、消化にもいいですよ」

パン・ウェイさん_銅鍋
「塩を入れなくても、野菜の色がきれいに残る」ため、野菜をゆでる時には銅鍋を愛用。小型はソース作りに、大型は中華スープをとる時など使う。

目でも味わい、心で楽しむ

作った料理は、盛り付けまでていねいに。
「最後の仕上げを少しがんばれば、食べる人も喜んでくれるし、自分もうれしい。それにはこうした先が細い箸が必要なんです」

すぐに取り出せるように、いつもエプロンのポケットに入れているのが、盛り付け箸。先端が細くなっているため、小さな食材もつまみやすく、繊細な作業ができます。

「上に薬味をちょこんとのせたり、きれいに見える角度に調えたり。ちょっとのことですが、料理が変わります。食事は体によいことも大事ですが、まずはおいしく、楽しく食べてもらえてこそですから」

パン・ウェイさん_箸
思い通りの盛り付けができる繊細な箸。黒色のものは輪島塗。「これがないと料理が仕上がらないから」と、箸は長期の旅行にも持っていく。

古い器に力をもらう

台所の壁一面の収納棚には、時間をかけて集めたお気に入りの器がおさめられています。
旬の食材の繊細な色艶を大切にしたいから、器はあくまで控えめに。料理を引き立てる白やガラスのシンプルな器が中心ですが、古い染付けや漆の器もとても好きだと言います。

「人が使い込んできたものには、生命力を感じるというか、いい“気”が宿っている気がして。どんなふうに使われていたんだろうって、なんだかロマンを感じるんです」

歳月や人の営みを感じる古い器や道具に惹かれ、時間を見つけては近所の骨董市に出かけたり、中国やヨーロッパなど旅先では市場や蚤の市をのぞいたり。味わい深く、小さな遊び心のある器は、食卓に上質な華やかさを運んできてくれます。

パン・ウェイさん_絵付け皿
昭和初期の絵付け皿、漆の椀など、すべて骨董市で見つけたもの。一目惚れだったという中央の青い器は、なんと200円だったとか。

お茶の豊かな香りで、リフレッシュ

食と同じくらい大切な、パンさんの元気のもとが、お茶です。台所で忙しく立ち働く合間には、お茶と甘いもので元気をチャージしています。
「お茶は私の毎日に欠かせないもの。火の前に立っているので体に余熱が籠り、むくみやすくなります。その改善のためもあって、朝から1日中飲んでいますよ。豊かな香りをかぐだけでも気分がすごくよくなりますから」

梅雨時期には菊花茶と梅茶、暑くなったら緑茶や白茶と、季節や気分によってお茶を選び、楽しんでいるパンさん。ちょっといらいらしてしまうときも、抹茶を点てて飲めば、すっと心が落ち着きます。

「お茶はいつも側にいる、頼りになる“友”のようなもの」
台所の棚には、何種類ものお茶と茶器が大事にしまわれていました。

パン・ウェイさん_中国茶
「小さい時から人が集まるときには必ずお茶がありました」というパンさん。流れるような美しい所作で、香り高い中国茶を淹れてくれました。

主治医は自分自身

20歳になるまで食事を作ってくれた、漢方の達人であるおばあさまの料理は、「不思議と全部おいしかった」と言います。

「なんでおいしいのか、それは、体調に合わせて作ってくれていたからなんですね。そのとき体に必要なものだから、おいしく感じる。体は正直です。大事なのは、自分の体調によく目を向けて、どんなものを食べようかと、日々調整すること。今の食事が5年後の元気を作っていくのですから」

「台所はわたしの生活のすべてですよ」と花の咲くような笑顔で話してくれた、パンさん。
お話を聞いていると、台所とは、健やかに生きていくための知恵を、その備えを集めておく場所なのだと実感します。

今、あなたの台所には、どんな備えがあるでしょうか?
疲れた時に食べたい酢や梅干し、夏は暑さをのりきる夏野菜があると安心です。暮らしを少し豊かにしてくれる、好きな器や飲み物を用意するのもいいですね。

一つひとつは小さな知恵でも、少しずつ貯めていけば、それはかけがえのない財産になる――。はつらつと元気なパンさんの笑顔が、その大切さを物語っていました。

パン・ウェイさん_毎日の食事で体と心をいたわる
毎日の食事で体と心をいたわる。台所にはパンさんの元気の秘訣がつまっていました。

写真:西希 文:加藤奈津子

<プロフィール>

パン・ウェイ

パン・ウェイ

中国・北京生まれ。「季節と身体」をテーマに四季に沿った食生活を提唱し、東京・代々木公園にて薬膳料理や中国家庭料理の教室を主宰。 テレビ出演や講演会の他、企業向けのレシピ開発等でも活躍中。「毎日からだを調える中華スープ」、「中華小菓子」(誠文堂新光社)など著書多数。

「大陸情韻」

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